理想のSEOをやるにはインハウスが良いか、コンサルが良いか

理想のSEOを追求するなら、「インハウスSEOとして働く」のが良いか、「SEOコンサルティング会社」で働くのが良いか、両方を経験した立場から考えてみました。

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私がJADEに参画して約半年が経ちました。
コンサルティング側に身を置くようになってからの時間はまだごく短いものですが、事業会社と支援会社両方を経験したことで、こんなテーマで書いてみようかなと思い、はてなブログの管理画面を立ち上げました(筆をとりました、と書こうとしたところ、”手書きの文章を書くわけじゃないし変だな”、と色々考えた結果、妙に正確な表現になってしまいました)
 
テーマは、「理想のSEOをやるならインハウス(事業会社)側で仕事をするのが良いか、コンサル(支援会社)側で仕事をするのが良いか」。
 
まず、「理想のSEOってなんだよ?」ってツッコミが入ってきそうです。
これは人によって、そのイメージするものに違いはあると思いますが、私は「対象の製品・サービスの”オンラインプレゼンスを上げるためのあらゆる取り組み”に関与できるSEO」が理想じゃないかな、と今は考えています。

雑駁に言えば、「自分が担当しているサービスのブランド力を高める」ことにコミットすることなしに、長期的なSEOの成果を作り上げることは難しくなってきたということです。
2004年頃に私がSEOをやり始めた頃に認識していた「SEOの範囲」は、今日随分と拡張され、もはやSEO担当者の業務領域を越えたところにSEO成功の要因が存在するといっても”当たらずとも遠からず”、な感じになっています。
 
そのため、SEO担当者に求められるスキルセットや経験もかなり多様化してきているように思います。
 
人材の話と言えば、前職時代は、採用する立場として多くの方と面接してきました。
現場としては恒常的に即戦力ニーズが高いということもあり、大手の代理店やSEOコンサルティング会社でSEOに従事中の方とはかなりお会いして会話させていただいたと思います。
 
転職理由として多かったのは、
 
  • 「改善策を提案するだけは物足りないと感じるようになった。”当事者として事業を動かす”立場になりたい」
  • 「クライアントの事業成長のためには、今の自分の会社の提案可能な範囲だけでは難しい。事業会社に移れば、成果を上げるために採れるオプションが増え、満足した仕事ができそう」
というもの。
 
私の知っている範囲でも、元支援会社にいた優秀なSEOの方がここ数年で事業会社へ移られるケースを少なからず見てきました。
この方々の多くには、いわゆる従来型のSEO提案の範囲(内部施策のチューニング提案、SEO記事納品 etc...)だけでは、SEOの成果を出しづらい、あるいは事業の本質的な成長に実はあまり貢献できていないなどの問題意識があり、
 
「このままでよいのだろうか?」
「もっと事業の上流に入り込む仕事をしないと自分が成長できないのではないか?」
 
という思いが結構あったんじゃないかな、と推察しています。
 
ただ実際には、事業会社に転職すれば、いきなり組織横断で広報やソーシャル、広告チームを巻き込んだり、営業組織と連携してSEOにもつながるアクションがすぐ採れるようになるかと言えば、かなり難しいはずです。
各部門は細分化されていますし、果たすべき役割が分かれています。
そして、それらが目標やKPIに変換され、チームや人に割り当てられて動いています。
部署間の利害の衝突は起こりがちなので、その中で上記のようなアクションを実行するなら利害調整の当事者としての突破力が必要ですが、入社早々にそれを発動させるのはなかなか大変なことです。
 
確かに、回りを巻き込む力を身につけていけば、徐々に自分の望むような展開に持ち込んでいくことも可能かもしれません。
が、これが実現できている方は、私の観測範囲という限られたN数での見立てですが、3-4割程度ではないかと思います。
 
私は自身のキャリアの大半が事業会社です。
在籍していた時は、幸運にも色々と組織を巻き込んだ取り組みもやらせてもらえたり、SEOの価値も念頭に置きながらビジネスモデルに影響を与えるような変化の意思決定の仕事などに取り組むことがある程度できたほうかなと自分なりに思っています(できなかったことも色々...)。
 
そんな私の主観に基づいて、「事業会社でのSEOで成功する一番の秘訣はなにか?」と問われれば、それは「組織で偉くなること」と答えます。
 
身も蓋もない話ですが、あの和久さんも「正しいことをしたかったら偉くなれ」という名言を残されていますし、そんなに外れてはいないとも思うのですよね。

気にかけたい4つのポイント

じゃあ、これが真実だとして、どうすれば偉くなれるか?という話になりますが、「組織内の政治的な話」を除いて、以下のポイントを気にしながら仕事していくことが大事なのではないかと思っています。
 

1)まず、信頼を得ること

・新参者は最初、信頼されていません。信頼ポイントを蓄積していくいことが大事
・クイックウィン(Quick win)を意識する:いきなり成功するかどうかわからない大掛かりな施策に多大な労力をかけるのではなく、小さな工数でそれなりのインパクトが出る取り組みでいくつか成果を見せて信頼を得ていく

Nothing is as fast as the speed of trust. ( "THE SPEED OF TRUST" By スティーブン・コヴィー(『7つの習慣』著者))

 
2)自社の強みやアセットを心底理解して、地に足のついた提案をする

・競合にあって自社にないもののキャッチアップに人は意識が向きがち(隣の芝生は青く見えがち)。しかし、SEOではそれはあまり正しいアプローチとはいえない
・競合がそれをやって伸びているのは、彼らが保有しているアセット(資産)に基づいて行っているから。インハウスSEOは、自社のアセットはなにかを見極め、それをSEOにも価値を発揮するものに変換する方策を考えるべき
・アセットの発見の為には、「経営トップの言葉」や、「利用者が自社について語っている言葉」等の傾聴が有効
・これができれば「事業会社のSEO担当者」らしい、借り物ではない、地に足のついたアイデアが生まれてくるはず
 
3)継続力と変化対応力

・外部のSEOコンサルティング会社の協力も得ながら、リニューアルを実施すると、その瞬間には非常にウェブサイトが「整えられた」状態になり、嬉しいもの。成果も半年か1年続くが、その後サチる
・ひとととおりの施策をやり切ってからがインハウスSEOの勝負
・「施策のひねり出し」や「仕組みづくり」など、「継続性」を念頭においた取り組みが必要に。常に、こういう仕込みをしておかないと、社内での恒常的な開発工数確保も困難
・また、数年に一度やってくる大きな環境変化に対して、しっかり応じていく「変化対応力」も必要
・この段階では、「狭いSEO」だけでは成果は出せなくなってくるため、他組織を巻き込んだ取り組みも必要に。社内における信頼ポイントもある程度蓄積しているので、仕事はやりやすくなっているはず
 
4)経営層とは経営の言葉で話す

・経営層には、経営の言葉で会話すること。かと言って、単純にSEOの売上貢献額を言えばいいということでもない
・経営者が「気にしている」ことは必ずしも売上だけではなく、アライアンスの組みやすさにつながる自社評判の状況など、色々考えられるため、その文脈に沿うような報告や会話をするように心がける
 
ざっと列記してみましたが、いかがでしょうか。
「信頼獲得」、「地に足のついた施策アイデア創出」、「継続性」、「変化対応」、「経営との適切なコミュニケーション」を着実に積み重ねていけば、自分のやりたい理想のSEOに徐々に近づいていけるのではないかと思います(足りてない観点もあるかもしれません。読んでくださっている皆さんの経験も教えていただけると嬉しいです。)。
 
余談ですが、信頼を得ながら徐々に地場を固めて広げていくステップは、コンテンツマーケティングのオーディエンス構築の過程にも通じるところがありますね。

実は「経営との近さ」が大事なのかも

と、ここまで「事業会社のSEOでうまくいく」ためのアドバイスめいたものをつらつらと書いてみたのですが、書いた当人が今はコンサルサイドで仕事をしております。
私自身がこの立ち位置の変化を楽しめているかどうかということについてですが、結論から言いますと「ものすごく楽しめ」ています。
 
理由としては、私以外のJADEメンバーは全員コンサルタントなのですが、私だけはコンサルティング会社にいながら経営者として「会社をどう伸ばすかを考える」責任者というユニークな立場で仕事ができているという点があります。
この意味で、感覚としては、事業会社にいた頃と同じです。これがひとつ。
 
もうひとつは、JADEが関わっているほぼすべてのコンサルティングの仕事において、カウンターパートに立っていただいているのが経営者、あるいは事業の意思決定に権限を持ってらっしゃる方であり、かつ(結果として)長期のお付き合いとなっている点です。
お客様側の強いコミットにより、多くのご提案がスピード感を以て推進され、また他部署を巻き込んだ取り組みにも積極的に応じていただけているのは大変ありがたいことと常々感じております。
 
こう考えてみるとと、楽しくやりがいをもってSEOの仕事をやるために大事なポイントは、「事業会社か、コンサルか」という立ち位置の違いではなく、実は「経営(意思決定者)との近さ」の中で仕事ができるかどうかということなんじゃないかと思うのです。
 
事業会社であれば自分自身が、支援会社であれば直接コミュニケーションさせていただく相手方にそういうお立場の方に関与していただく、これが実現できれば立ち位置はあまり気にならなくなるのではないかな、と思う次第です。
 
本記事の読者の中に、SEOを軸に新たな活躍の場を模索している方がいらっしゃるようでしたら、そこが「経営と近い距離感で仕事ができる」場なのかどうかという観点で一度捉え直してみてはいかがでしょうか?